きみのうたごえ



「はぁ・・・。」

今までに無いくらいのため息の多さ。
ため息は幸せを逃がすなんて話があるけれど、
それが本当だとしたら今俺はこんなに何かが締め付けられているのに
何だかそれが心地が良くなるのだろう。

「桃、音・・なぁ・・・。」

呟いて出てきたのは、自分が旅立ちを決意した日に出会った子の名前。
あの日出会って、初対面の癖に自分の辛い過去をこの自分に教えてくれた。
内容はたまらなく悲しいものだが、それをこんな俺に話してくれた事がたまらなく嬉しかった。
名前を出すだけで妙に体が火照る。これが所謂―

「さっきからため息と同じセリフの繰り返し。ハスマーンてば気持ち悪い。」

人が幻想に浸っているところに襟首を掴んだように強引に現実へと引き戻したのは旅先で出会ったひなぎくだった。
繰り返し・・・?

「そ、そんなに俺同じこと繰り返していたか?!」
「耳にてタコが大漁!てな具合に、ね。何なのさ、桃音って。誰かの名前みたいだけど。」
「あ・・・ま、まぁな。」

俺の乾いた笑い声とジトっとしたひなぎくの視線だけが存在する空間。

「・・・誰なの?まあ、あんたのことだから彼女なわけではないでしょうに。」
「―!!!」

それは相手に迷惑になるだろうと分かっているのに、密かにそうなる事を願っていたものを
ひなぎくという少女は単語にしてあっさりと出してきた。
全身が、物凄く熱い。
誰か、どうかこの体にへばりつくような熱をとってくれないだろうか。

「とりあえず、ぼやっとしていると次の目的地行けないから。ずっとそうしているのなら、私はあんたを置いていく。」

―次の目的地・・・置いていく・・・

妙にその文脈が気になってしまっていた自分はきっと、とある1つの事・・もとい1人の少女の事しか考えていないのだろう。
そう、それは―








(一刻も早く会ってあげられる様に先を急ぐ事にした。
でもそれは会ってあげるのではなく、自分が早く会いたいということが分かるのはソルベに指摘されてからの事だった。)